日常診療で多くの方が「ほくろ」の相談で当院に来院されます。
ほくろは誰にでもある一般的なものですが、色々な情報が溢れていて何が正しくて何が正しくないのか分からず不安になったり、迷われたりする方も多くいらっしゃると思います。
そこで、美容皮膚科として10年以上、述べ数万を超える症例を治療してきた専門家という立場から確実な内容をお伝えできればと思います。
今回は普段、よく患者様からご相談の多い5つについて解説させていただこうと思います。
【よくいただくほくろの相談ベスト5】
1.何故、ほくろは出来るのか
2.ほくろは遺伝するのか
3.このほくろは大丈夫?
4.ほくろと癌の関係
5.ほくろを小さくしたい
1.何故、ほくろは出来るのか
病理学的には「ほくろ」は皮膚奇形と分類されます。
奇形と聞くと怖く聞こえるかもしれませんが、異常という意味ではありません。
皮膚奇形は基本的に生活習慣(食べ物など含む外因子)によって発生するものでありません。
ただ、今あるほくろを刺激したりすると大きくなったり、非常に確率は低いですが癌化するケースがあります。気になるからとご自身で削ったり突いたりしない方が安全です。また、日焼けなどでも濃くなることがありますが、もともとは自然発生的なものになりますので、外因子によって大きくなったり濃くなったりすることはありますが、何か外からの影響でほくろが発生することは基本的にはありません。理由無く、原因無く皮膚に発生する”できもの”です。
2.ほくろは遺伝するのか
よく「ほくろは遺伝ですか?」と聞かれることがあります。
「父や母と全く同じ位置にほくろがあるんです」と時々耳にします。
基本的にはほくろは遺伝すると医学的には認められておりません。
しかし、日常診療で母親とお子さんが一緒に診察に来られて、全く同じ位置にあるほくろ除去を処置することがあります。
確かに全く同じ位置にほくろがあることが多いように思います。
このことから、明確な遺伝は無くても、ほくろが出来やすい体質は遺伝するのかしれないと私は思います。
3.このほくろは大丈夫?
当院でもほくろが癌ではないかと心配されて来院される方が多くいらっしゃいます。
当院でも、来院されて癌が見つかるケースは1000人に1人くらいの確率です。
病理学的には一般に”ほくろ”と呼ばれるもののほとんどが母斑細胞性母斑です。
色素性母斑、色素細胞性母斑と呼ばれることもありますが、色素のないほくろもありますので、総称して母斑細胞性母斑と私は呼んでいます。
この母斑細胞性母斑は大きく2種類に分類されます。
1.丸くて小さい通常型(よく見かけるもの)
2.先天性巨大母斑などの特殊型(眼瞼の上下に分類して出来るものなども特殊型です)
来院されるほとんどの方のほくろがこの1に該当する通常型です。
母斑細胞性母斑は、母斑細胞が集まっている位置で境界母斑、真皮内母斑、複合母斑と名称が変わりますが、処置する頻度から、ほとんどの場合、真皮内母斑(真皮内に母斑細胞が集まってできているほくろで、深めのほくろ)です。
稀に「青いほくろ」があります。色がほくろよりも少し薄く青みがかっていることから青色母斑と言います。
母斑細胞性母斑に比べ頻度は高くありませんが、ほくろに見えても由来が全く異なるタイプのものです。母斑細胞由来ではなく、真皮メラノサイト由来になり、病理学的には”あざ”の一種です。
真皮は表皮の下に位置するため、顔面で約2mm程の深さに位置します。そのため、治療する際は相当深く削る必要があり、その分傷跡が残りやすく、さらに傷が残りやすい手足に出来やすいほくろです。深い時は脂肪層や筋層近くまで達しているケースがあります。特に手の甲に出来た場合、除去後はケロイド化しやすく、膨らんで相当大きな赤い跡として残ることがあります。見た目は小さいほくろのようにですが、元々のほくろよりも除去後の傷跡の方が目立ってしまうということもありますので、治療の際は慎重に行わなければなりません。
よく突起のあるほくろ(盛り上がっているほくろ)は根が深いのでは?と相談を受けることもありますが、実際はほくろの突起の程度と深さは全く相関関係はありません。
また、これら以外にも日光角化症(老人性角化腫)、脂漏性角化症(老人性イボ疣贅)、日光色素斑、これらが混合した部位にほくろが重なるケースもあり、そうなると医療知識のない方が見分けるのは困難にもなります。
4.ほくろと癌の関係
ほくろに似た皮膚の悪性腫瘍はいくつかに分類されます。
1つは悪性度の低い基底細胞癌(基底細胞腫)です。基底細胞癌の場合、大きさも見た目もほとんど良性のほくろと変わらないことがあり、見た目だけで悪性か良性かを判断することが難しく、病理検査を行わなければ確定診断が出来ません。実際に1000人に1人くらいの確率で基底細胞癌が見つかっています。
基底細胞癌は、悪性度が低く転移することはほとんどありませんが、拡大切除が必要ですので、除去後に基底膜細胞癌と診断された場合は再手術が必要になります。
次に悪性腫瘍として一番悪性度高い悪性黒色腫があります。
悪性黒色腫は特に転移する傾向が強くその速度も速いため、病歴(出現時期や拡大速度等)、出来た部位、出血有無、合併症状有無、大きさ、形、周囲への滲み出し、皮溝のくずれなどいくつかの特徴があり、比較的見た目で判断することができます。
【悪性黒色腫の見た目で判断する基本的な特徴】
1.いびつな形 Asymmetry(非対称)
2.境界不明瞭 Border(輪郭)
3.色調不均一 Color(色)
4.長径6mm以上 Diameter(径)
5.隆起 Elevation
これらを覚えやすいように、頭文字から一文字ずつとってABCDEと表現されます。
※初診時に悪性黒色腫が疑われた場合は、不用意にその場で処置をせず、最初から総合的な対応が可能な総合病院や大学病院に紹介させて頂きます。
次に悪性度が中程度の高い扁平上皮癌(有棘細胞癌)もいくつかの特徴があります。
色合いはほくろにしては少し薄く、比較的柔らかく、出血しやすい傾向があります。隆起することが多く、唐突に出現することもあり、瘢痕(はんこん)と呼ばれる硬い傷で常に擦られる部分や慢性的な刺激を受けやすい部位に発生することが多い癌です。
小さいうちは、おできのように見えますので「大丈夫だろう」と放置されることがありますが、真ん丸ではなく、隆起している比較的柔らかいできものには注意が必要です。
その他、珍しいものに転移性の皮膚悪性腫瘍があります。皮膚にできるものとしては形が珍しく、多房性であったり、やわらかさがおでき(アロテーマ)でもなく、脂肪腫でもなく、石灰化上皮腫でもない皮膚にできる腫瘍の硬さと違う硬さをしています。つまり、オリジンと呼ばれる原発巣の癌の特徴をそのまま持って皮膚に現れる特殊な腫瘍です。
よく「ほくろを取ると癌化しませんか?」と聞かれることがあります。
医学的に安全性が確立されたレーザー治療や切開術でほくろを除去しても癌化することはありません。
先ほどご紹介した悪性度の高い悪性黒色腫になんらかの処置を施すと、別の場所に転移することがあります。
また、悪性度の低い基底細胞癌を切除した場合でも、取り残しがあると高い確率で再発します。
どちらの場合も、今あるほくろが癌化するのではなく、切除後に癌であることが判明することがほとんどですので、ほくろ除去後に癌化するように思われることが「ほくろを取ると癌化する」の起源なのだと考えます。
ただ、医学的判断ができない人がほくろを除去する場合は注意が必要です。
民間療法として、ご自身で薬品・漢方・もぐさなどを使って取る場合などです。
皮膚へ刺激を何度も不用意に繰り返すこれらの方法は、周囲の皮膚へ悪影響を及ぼし、数年後に癌化する可能性を否定できません。
このほくろは心配だな、と思ったら迷わず専門家の医師の診察を受けることをおススメします。
5.ほくろを小さくしたい
この相談もよくいただく内容です。
ほくろを全部取るのではなく、一部だけ除去して小さくしたいというご要望です。
理由としては周囲の人に処置したことを知られたくないからというものです。
ほくろを全部取るか一部だけ取るか問わず、処置後はガーゼやテープをアフターケアとして必ず行います。
ですので、処置したことが周囲に知れるという意味では結果は同じと言えるでしょう。
人の顔を認識するときに意外とほくろはその人の顔を認識する時に黒かったらそこに目はいきますが、ほくろを認識の元にすることはありません。ですから、ほくろがなくなってもずっと会っていない人は気づかないものです。これは私自身もほくろを除去して経験済みです。
普段からよくその人の顔を見ている人、またその人に対し興味のある人であれば気づいてくれますが、興味のない人が髪を切っても気づかないのと一緒でほくろを取っても気づかない人は気づかないので、あまり気にする必要はないと思います。
また、もし部分的にほくろを除去したとしても、取った後にほくろの形が丸くならずに、三日月型など歪な形になる可能性があります。
ですから、メリットがないので当院では一部だけ残すような処置は行っていません。
例外として、大きいほくろの場合、1回で取り切れないことがあり、2回以上に分けてとる場合がありますが、その場合はほとんどがレーザーではなく、切開術の適応となります。
ここまでが良くいただく5つの質問の回答でした。
次回はほくろの治療に関することをご紹介したいと思います。
今回はほくろについて詳しく解説させていただきましたが、正しい知識を少しでも知ることが安心につながると考えています。
世の中には様々な情報が氾濫しています。この記事が適切な治療を選択いただく助けになれば光栄に思います。
ほくろに限らず、美容医療の正しい知識や情報を記事だけでなく動画でも発信しています。
どんどん新しい情報をアップしていきますので、是非よろしくお願いいたします。