無理矢理に何度もお見合いに連れ出されるお姉さんの姿をみて、私は決心をしました。お姉さんは、僕に一言も何とかしてほしいと懇願したことはありませんでした。
仮に、僕に頼み事をしたとしても、僕を困らせてしまうことが、分かっていたからだと思います。医師を目指す、道半ばの医学生の身の僕に、迷惑をかけたくなかったのでしょう。それに、20才そこそこの青二才には、期待をかけていなかった
のかもしれません。
しかし、このまま手をこまねいていて、座して待つことは出来ません。いよいよ
僕が彼女のお父さんに、直接話をしなければいけない、時が来ました。
お姉さんを通して、お父さんとお会いすることを約束した日。以前は、家庭教師として訪れた部屋とは違う応接室に通されました。私を案内するお姉さんは不安な表情で、今にも泣き出しそうなくらいでした。
深く沈み込む大きなソファーに、僕は浅く腰を掛け、お父さんが来るのを待ちました。
応接室のドアが開いて入ってきたお父さんは、硬く無表情でした。学生時代にサッカーで鍛えられた体格は、大変大きく感じられ、こちらに迫ってくるようでした。
(つづく)