眼瞼下垂手術では、上眼瞼の筋肉を短くすることで眼を開けやすくします。上眼瞼の筋肉には2種類あり動眼神経で動く眼瞼挙筋と、自律神経と密接なかかわりがあるミュラー筋です。
手術では、眼瞼挙筋のみを短くする方法と、眼瞼挙筋とミュラー筋も短くする方法と、ミュラー筋のみを短くする方法と、先生によってさまざまです。
信州大学形成外科教授の松尾先生は、ミュラー筋には重要なレセプターがあるので、極力ミュラー筋は傷つけないように、眼瞼挙筋を操作する方法を推奨されています。愛知医科大学眼科の柿崎先生は、ミュラー筋も眼瞼挙筋と一緒に瞼板からはずして短くする方法を推奨されています。
どちらの先生も基礎的な研究を積み重ねた上、さらに多くの患者さんを手術された結果から、各々の結論に到達されたのだと思います。ですから、私のような若輩者がどちらかの方法の善し悪しを論じるつもりはありません。
当院にも眼瞼下垂の患者さんが多く来院され、手術を行っております。実際の手術の場面で難渋した際には、松尾先生の見解も、柿崎先生の見解も大変参考になり、手術を円滑に行うために不可欠な考えだと、いつも尊敬の念をもって納得しながら手術を行っております。
たくさんの眼瞼下垂の手術をしていると、患者さん各々で、眼瞼挙筋を含む上眼瞼内部の構造はさまざまで、きわめてバリエーションが多いです。バリエーションが多いということは、それだけ手術方法も違ってきて当然だということです。
眼瞼挙筋を処置することで開眼が改善すれば、深い部分にあるミュラー筋を操作しなくてもよいでしょうし、また、ミュラー筋を切る切らないにかかわらず、どうしてもミュラー筋に何らかの操作を行わなければ、開眼が改善しない人もあると思います。
術中に各々の患者さんで異なる眼瞼挙筋とミュラー筋の構造上位置関係を正確に把握し、最小限の侵襲で最大限の改善が得られることを目標に、その方にあった手術方法を選択することが大切だと思っています。