救急隊員は、
私に会釈をすると同時に
”意識レベル3の300”
と叫びました。
3の300とは、
痛み刺激にもまったく
反応することがない
完全に意識がない
状態を表します。
救急車内ではすでに
胸部を圧迫する
心臓マッサージが
行われていました。
救急車の
ストレッチャーから
救急救急室のベットに
患者さんが移されました。
数秒間で、
看護師は手際よく
ずぶ濡れの
患者さんの服の
前ボタンをはずし、
シャツをハサミで一気に切り
心電図の電極を
胸に貼り付けました。
心電図計に、
現れる波形は
完全にフラットでした。
救急隊員が、
胸を押すたびに
人工的な波形が
現れるのみでした。
そのまま、
心臓マッサージは
救急隊員に任して
私は、
気管内挿管を
はじめました。
成人男性に用いる
8.5mmの
挿管チューブは、
すでに用意してあります。
挿管がスムーズに
できるように、
患者さんの
頭の位置を
動かします。
臭いをかぐような位置
“sniffing position”
をとります。
右手の親指と
人差し指を交差させ
患者さんの歯に当てて
指で口を開き
わずかな隙間の
左口角から
マッキントッシュと
呼ばれる喉頭鏡を
挿入します。
マッキントッシュの
先端にはライトが
ついていて
挿管チューブを
挿入する声帯を
照らしてくれます。
ここで、
もっと見やすくしようと
マッキントッシュを
無理にひねると
歯が折れてしまうので
注意が必要です。
挿管チューブが
声帯を超えて
挿入されたことを
確認したら
柔らかいチューブを
支えるために
挿入されていた
スタイレットを
看護師さんに
抜くように
指示します。
チューブをさらに
奥に進め、
これで人工呼吸が
可能となります。
おぼれたときに
水が気管内に
入り込んでいるので
心臓マッサージで
胸が押されるたびに
挿管チューブを通して
水が音を立てて
逆流します。
挿管チューブ内の
水分を吸引で排出し
人工呼吸用の、
バッグを押しました。
普段より、バッグが
重く感じました。
（つづく）

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