再び、話し始めたお父さんが
説明し始めたのは、
”家”のことでした。
先祖代々のこの土地を守り、
お墓を守っていかなければ
ならないこと。
そして、
当時まだご健在でおられた、
おじいさん、おばあさんの
面倒をみていかなければならないこと。
この家を途絶えさせることは
できないのだと。
だから、
長女の彼女には、婿養子をとって、
家督を継いでもらわなければならないと。
個人の意思が考慮されない
この福井の”家”に対する思いは、
大阪で育った私には
理解できませんでした。
私の父は、次男でしたが
長男の兄が養子に出たため、
本来ならば、”塚原家”の
家督を継ぐ長男で、
私も長男なのですが、
特に裕福な”家”ではなかったので、
父から、”塚原家”の家督のことを
言われたことが一度も
ありませんでした。
だからこそ、
彼女のお父さんが
”家”にこだわることが、
納得できず、戸惑うばかりでした。
”家”を重んじる、
彼女のお父さんの考え方と、
個人の意思を重んじる
私たちの考え方の隔たりが、
簡単に埋まることはないことは、
当時の私にもわかりました。
期間はかかるかもしれないが、
繰り返し繰り返し僕たちの思いを、
お父さんに伝えていくしかないと腹を据え、
その日、私は彼女の家を後にしました。
私を見送る彼女は、
”ありがとう”と
言ってくれました。
すでにあたりはとっぷり日が暮れていて、
道を照らす明かりは薄暗く、
次の街灯は、はるか遠く先に見えました。

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