彼女のお父さんは、その巨体をソファーに、沈み込ませるように座ると、僕が話し出すよりも早く、口火を切りました。
お父さん自身が長男で、家督を継がなければならないこと。この家を継ぐために、一流企業の取締役を捨てて、福井県に戻り、会社を興したこと。
この会社は息子のようなもので、会社を存続させるために、長女である彼女には、婿養子を取らせて、会社を継がせる必要があること。彼女には、昔から
そのように言い聞かせてわかっていたはずだと。まるで、私にが話すのを遮るように、間断なく話し続けました。
僕が、自分の今の気持ちを話そうと思った瞬間に、お父さんは、僕の心を見透かすように言いました。医学部を卒業して、医師免許を取ってもらってもかまわないが、会社を継いでくれと。それならば、彼女とのことはいっさい反対しないと。
予想はしていたことですが、彼女のお父さんから直接、はっきり言われて、ひるんでしまいました。それが、現実だとわかっていても、お父さんの言うことは、彼女の気持ちを無視する、たいへん理不尽なことだと憤りも覚えました。
しかし、お父さんの顔も、真剣そのもので、気迫も感じられました。何か、糸口でもあればと淡い期待をしてましたが、とりつく島がなくなりました。
自らの骨折をきっかけに医師にあこがれ、1年間の厳しい浪人生活をして、やっと
夢が現実になろうとしている医師への道と、ひとりの女性を天秤にかけなければ
ならない時がやってきてしまいました。
(つづく)
続きがすごい気になります!